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橋本病・甲状腺機能低下症

 

 

数あるクリニックのホームページの中から、この記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。
院長の小野亘です。

「最近、なんとなく疲れが取れない」「以前より寒がりになった」「便秘がひどくなった」「顔や足がむくみやすい」「コレステロールが高いと言われたのに、食事を気をつけてもなかなか下がらない」「動作がゆっくりになった気がする」
そんな症状でお悩みではありませんか?

これらは、年齢や生活習慣のせいだと思われがちですが、実は甲状腺の働きが弱くなっているサインかもしれません。特に女性に非常に多いのが「橋本病(慢性甲状腺炎)」による甲状腺機能低下症です。成人女性のおよそ10人に1人がかかっているとも言われる、とても身近な病気です。

私は慶應義塾大学病院の腎・代謝・内分泌内科で、腎臓病だけでなく、甲状腺を含む代謝・内分泌疾患の診療にも携わってきました。腎臓と甲状腺は一見別々の臓器に見えますが、実は密接に関連しています。甲状腺の異常は脂質代謝やむくみ、倦怠感などを通じて腎臓の負担にもつながることがありますし、逆に腎臓の状態が甲状腺の評価に影響することもあります。そうした経験を踏まえ、当院では甲状腺の異常も大変重要な視点ととらえ、丁寧に診ています。

今日は、日本甲状腺学会の診断ガイドラインなどを踏まえながら、患者さんにできるだけわかりやすく、この病気の全体像をお話しします。検査や治療がなぜ大切なのか、放っておくとどうなるのか、日常生活で気をつけることまで、しっかりお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください。

 1. 甲状腺は体を調整する大切な臓器です

甲状腺は、首の前、のどぼとけの少し下にある小さな臓器です。蝶々が羽を広げたような形をしています。

ここで作られる「甲状腺ホルモン」は、全身の代謝をコントロールする非常に重要な役割を持っています。エネルギーを生み出し、体温を保ち、心臓の拍動を整え、腸の動きを助け、脳の働きをサポートし、コレステロールのバランスを整え、肌や髪の健康を保つ——まさに体全体の「エンジン回転数」を調整しているホルモンです。

このホルモンが足りなくなると、体のあらゆる機能がスローダウンしたような状態になります。これが「甲状腺機能低下症」です。重症になると「粘液水腫」と呼ばれるむくみを主体とした状態になり、さらに進むと命に関わることもあります。

 2. 橋本病(慢性甲状腺炎)とはどんな病気?

橋本病は、自分の免疫システムが誤って甲状腺を攻撃してしまう「自己免疫疾患」の代表格です。免疫細胞(リンパ球や形質細胞)が甲状腺に集まり、徐々に甲状腺の組織を壊していきます。これが病理学的な特徴です。

有病率は総人口の約2%、成人女性では約10人に1人と非常に頻度が高く、男性の5~10倍、女性に多い病気です。免疫・遺伝性素因・環境因子などさまざまな要因が重なって発症します。ほとんどの場合、ゆっくりと進行し、最初はほとんど症状がなく、健診で「甲状腺が少し腫れている(びまん性甲状腺腫)」と指摘されて見つかることも多いです。

患者さんの血液中には、抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体や抗サイログロブリン(Tg)抗体といった甲状腺自己抗体が高率に存在します。ただし、抗体が陽性でも、甲状腺の働きが一生正常なままの人も少なくありません。その場合は「橋本病(機能正常)」として、必要な時にチェックしていく形になります。一方で、橋本病の10~25%の方に、はっきりとした甲状腺機能低下症(顕性甲状腺機能低下症)が現れます。

また、橋本病の経過中に一時的に甲状腺が壊れてホルモンが過剰に出てしまう「無痛性甲状腺炎」という状態になることもあります。この時は動悸や手の震えが出ることがあり、バセドウ病との鑑別が重要になります。まれに頸部痛や発熱を伴う「急性増悪」を起こし、亜急性甲状腺炎と見分けがつきにくい場合もあります。

さらに、高齢者では甲状腺悪性リンパ腫(非ホジキンリンパ腫)の合併リスクが、橋本病でない人の約60倍高いという報告もあります。また、1型糖尿病や副腎皮質機能低下症(アジソン病)を合併する「自己免疫性多内分泌腺症候群(APS)」の一部として現れることもあります。

3. こんな症状はありませんか? 見逃されやすいサイン

甲状腺ホルモンが不足すると、強い疲労感やだるさ(特に朝起きられない)、寒がり(冬だけでなくエアコンの効いた部屋でも寒い)、体重が増えやすい・なかなか減らない、顔やまぶた・足のむくみ、便秘、肌の乾燥やかゆみ、髪が抜ける・細くなる、眉毛の外側が薄くなる、声がかすれる、動作がゆっくりになる、ぼーっとする、集中力や記憶力の低下、月経が重い・不順になる、コレステロールや中性脂肪が高くなる、筋肉の酵素が高くなるといった症状が出やすくなります。

一つ一つは「疲れ」「歳のせい」「ストレス」と思われがちですが、複数当てはまる場合はぜひ一度検査を検討してください。高齢者の方では、典型的な症状が出にくく、「なんとなく元気がない」「認知症のような症状」「うつ状態」として現れることも少なくありません。そのため、見逃されやすいのが特徴です。また、入院中の患者さんでは、重症疾患の影響で一時的に甲状腺ホルモン値が変動することもあり、慎重な評価が必要です。

 4. 検査で何がわかるのか なぜ検査がとても大切か

当院では、まずは簡単な血液検査から始めます。主な項目は、TSH(甲状腺刺激ホルモン)とFT4(遊離サイロキシン)です。TSHは甲状腺の働きが弱いと高くなり、FT4は実際に体に効いている甲状腺ホルモンの量を示します。必要に応じてFT3や抗TPO抗体、抗Tg抗体も調べます。

これで次の状態がはっきりします。FT4が低くTSHが高い場合は「顕性甲状腺機能低下症」と診断し、基本的に治療を開始します。FT4は正常だがTSHが高い場合は「潜在性甲状腺機能低下症」と呼び、すぐに薬が必要とは限らず、1~3か月後に再検査して確認します。

潜在性の場合は、ヨウ素の摂りすぎ(昆布の過剰摂取やヨウ素含有うがい薬の常用など)や、ある種の薬の影響がないかも確認します。ヨウ素過剰が疑われる場合は、制限してから再検査します。TSHが一定以上に高い場合は、心血管イベントのリスクが高まるため、治療を検討します。症状やLDLコレステロール高値がない場合は、原則として経過観察とします。

超音波検査では、甲状腺の大きさや内部の状態を見ます。橋本病では内部が粗く不均一になったり、全体的または部分的に低エコー(黒っぽく)見えることが多いです。触診では、びまん性に比較的硬く腫大することが典型ですが、萎縮して触知しない場合もあります。

症状だけで「橋本病かな?」と自己判断するのは危険です。逆に、症状がなくても検査で初めて見つかることも多いです。早期に正確な状態を知ることで、不必要な心配を減らせる、本当に必要な人に適切な治療を始められる、心臓や血管への負担を減らせる、妊娠を考えている方は流産や早産のリスクを下げられるといったメリットがあります。特に、健診でコレステロールが高めと言われた方、原因不明のむくみや倦怠感がある方、妊娠希望の方、高齢者の方は、一度チェックすることをおすすめします。

 5. 治療はどのように進めるのか 丁寧に、慎重に

基本は「足りなくなった甲状腺ホルモンを、薬で補う」ことです。使う薬はレボチロキシンという合成の甲状腺ホルモン製剤です。体内で必要な形に変換されるため、ほとんどの場合これ1種類で十分です。半減期が長いので、安定した効果が期待できます。

治療は少量から開始し、定期的に血液検査をしながら少しずつ量を調節していきます。目標はTSHを正常範囲に戻すことです。妊娠希望の方や妊婦さんは、さらに厳しめに管理することが推奨されています。朝起きてすぐ、または寝る前に、空腹の状態で水だけで飲んでください。コーヒーやお茶、牛乳と一緒は吸収を妨げるので避けます。

罹病期間が長い方、高齢者、虚血性心疾患のある方は、さらに少量から慎重に始めます。急に代謝が上がると心臓に負担がかかることがあるためです。鉄剤やカルシウム製剤、一部の胃薬と一緒に飲むと吸収が悪くなるので、時間をずらします。副腎皮質機能低下症を合併している場合は、先に副腎のホルモンを補ってから甲状腺ホルモンを始めます。順序を間違えると副腎不全を起こす危険があるためです。

機能が正常な橋本病の方は、原則として定期的な通院は不要です。ただし、体調が悪くなった時や、妊娠を考え始めた時は必ず検査を受けてください。挙児希望があり妊娠を予定する時、特に不妊治療を受ける時は、TSHを適切に保つように薬を使うことがあります。

甲状腺中毒症(無痛性甲状腺炎など)を起こした場合は、動悸や頻脈が強い時にβ遮断薬を対症的に使うことがあります。

6. 重症化するとどうなるか 放っておくリスクを知っておく

軽度のうちは「少し疲れやすい」程度でも、進行するとコレステロールが非常に高くなり動脈硬化が進みやすくなったり、心臓に負担がかかって心不全や心膜に水が溜まったり、認知機能が低下して認知症やうつと間違われたりすることがあります。

重度になると「粘液水腫性昏睡」という命に関わる緊急事態になることがあります。意識障害、低体温、低換気、循環不全、低ナトリウム血症などを起こし、特に高齢者で冬に感染症などをきっかけに発症しやすいです。致死率も高く、集中治療室での全身管理が必要になります。副腎不全を合併することもあるため、慎重な対応が求められます。

また、橋本病の方はまれに甲状腺に悪性リンパ腫ができやすいという報告もあります。定期的なチェックが安心につながります。意識障害がある場合や、副腎不全を合併している場合、有痛性の甲状腺腫がある場合は、専門医への相談が必要です。

妊娠中に甲状腺ホルモンが不足すると、流産や早産、胎児の発育への影響が出やすくなります。妊娠を希望される方や不妊治療中の方は、特に早めの管理が大切です。補充療法中の方が妊娠した場合は、すぐに増量が必要になることが多いので、早めに受診してください。

7. 日常生活で気をつけること

ヨウ素の摂りすぎには注意が必要です。昆布を毎日大量に食べる、ヨード入りうがい薬を常用するなどは避けましょう。甲状腺の負担になり、機能低下を悪化させたり、薬の効きを悪くしたりすることがあります。日頃から海藻(特に昆布)やヨウ素含有のうがい液の使用を控えることをおすすめします。

規則正しい生活と適度な運動を心がけ、他の自己免疫疾患(1型糖尿病や副腎不全など)を合併することがあるので、体調の変化は早めに相談してください。薬を飲んでいる方は、自己判断で急にやめないでください。過量になると頻脈、体重減少、手指の震え、発汗増加、不眠、血圧上昇、下痢などの症状が出ることがあります。症状が出た場合はすぐご連絡ください。β遮断薬を使っている場合も、急に中止すると症状が強くなることがあるため、自己判断でやめないでください。

8. 当院での診療について 総合内科専門医として、全身を見据えて診ます

私は慶應義塾大学病院の腎・代謝・内分泌内科で、腎臓病だけでなく甲状腺を含む代謝・内分泌疾患の臨床経験を積んできました。甲状腺の異常は、脂質異常症やむくみ、倦怠感などを通じて腎臓の負担にもつながることがあります。そうした全身のつながりを意識しながら、患者さん一人ひとりの生活背景に合わせて診療しています。

当院では、健診で甲状腺の異常を指摘された方、原因不明の疲れやむくみでお困りの方、コレステロールが高くてお悩みの方など、幅広くご相談を受けています。日本甲状腺学会の診断ガイドラインなども参考にしながら、最新の知見に基づいた診療を心がけています。

検査は比較的簡単で、結果に基づいて「今すぐ薬が必要か」「経過観察でよいか」「生活で気をつけることは何か」を、わかりやすくお話しします。

「まだ大丈夫だろう」と思っている今こそ、チェックするチャンスです。病気だけを見るのではなく、その先にある皆さんの生活まで考えながら、一緒に最善の方法を考えていきたいと思っています。

ご予約はお気軽にどうぞ。
診察室でお待ちしております。

院長 小野 亘
 

 

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